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人間国宝・羽田登喜男の着物はいくらで売れる?羽田友禅の価値
母から受け継いだ着物をどうするか、決めかねたまま何年も経っている。そんなタンスの中に「羽田登喜男」の落款が入った一枚があるなら、それは丁寧に扱うべき品です。羽田登喜男は1988年に友禅の人間国宝に認定された染色作家で、その作品は着物の世界で別格の位置にあります。この記事では、羽田友禅と呼ばれる作風がなぜ特別なのか、手元の着物が本人の作かどうかをどう確かめるのか、そして査定では何が見られているのかを解説します。買取に出すかどうかは、価値を知ってから決めても遅くありません。
羽田登喜男という作家
まず、この作家がどういう位置にいるのかを整理しておきましょう。
二つの友禅を学んだ経歴
羽田登喜男は1911年、石川県金沢市に生まれました。友禅の産地としては加賀の地です。若い頃に加賀友禅の技法を身につけたのち、京都へ移って京友禅も学びました。この経歴が、後の作風を決定づけることになります。
通常、友禅の作家はどちらか一方の系統のなかで技を磨きます。加賀と京では色使いも表現の方向性も異なるため、両方を修めるのは容易なことではありません。二つの流れを自分のなかで統合したという点に、この作家の独自性があるわけです。
加賀友禅は、加賀五彩と呼ばれる落ち着いた色を基調に、花や葉を写実的に描くのが特徴とされます。葉に虫食いを描き込む表現が知られているのも、この写実志向の表れでしょう。対する京友禅は、金彩や刺繍を併用し、意匠として華やかにまとめる方向にあります。方向性の違う二つを一枚の中で成立させるのは、技術の問題であると同時に、感覚の問題でもあったはずです。
1988年に人間国宝へ
長い制作活動を経て、羽田登喜男は1988年(昭和63年)に重要無形文化財「友禅」保持者、いわゆる人間国宝に認定されました。2008年に没するまで制作を続けています。
人間国宝の認定は、その人の技術が国として保護すべき水準にあると判断されたことを意味します。したがって作品の評価は、単に人気があるという話とは別の次元に置かれるものです。市場に出れば探している人が必ずいる。そういう安定した需要を持つ作家だと考えてください。
また、認定を受けた作家は制作数が限られます。手描きの友禅は一枚に長い時間がかかりますし、晩年になれば制作の本数も減っていきます。世に出た総数がそもそも多くないという点も、評価を支える要素のひとつでしょう。
「羽田友禅」と呼ばれる作風
加賀友禅は写実的で落ち着いた色調、京友禅は華やかで意匠性が高いといわれます。羽田登喜男の作品は、その両方の要素を併せ持つとされ、「羽田友禅」という呼び名で語られてきました。
なかでも鴛鴦を描いた作品はよく知られています。鳥や草花を写実的に捉えながら、配置や色の重ね方には装飾的な工夫が施される。この組み合わせが、他の作家とは違う印象を生んでいるといえるでしょう。
所有者の側から見れば、「どこか他の着物と雰囲気が違う」という感覚があるかもしれません。それは気のせいではない場合があります。手描きの友禅は、型で染めたものとは線の表情が異なりますし、色の重なり方にも手の跡が残るからです。ただし、その違いを言葉で説明できる必要はありません。写真を撮って専門家に見てもらえば済みます。
工房の作品との違い
注意しておきたいのが、本人の手による作品と、工房で制作された品の区別です。名の知られた作家には工房があり、その名を冠した商品が流通することがあります。これは偽物という意味ではなく、制作の体制の問題です。
ただし、評価の水準は当然異なってきます。落款の種類や証紙の記載から判断されますが、所有者が自分で見分けるのは難しいでしょう。査定士に判断を預けるのが確実な方法になります。
加えて、名の知られた作家には模倣も存在します。人気と価格が高いものほど模倣されるのは、この世界の常です。落款があるからそれだけで高額、という単純な話にはなりません。ただし、これは悲観する材料ではないでしょう。判別する目を持つ人に見せれば済む話であり、知られた作家ほど鑑別の知見が業界内に蓄積されているという利点もあります。
手元の着物を確認する
続いて、実際にタンスから出して確かめる手順です。
| 確認するもの | どこを見るか |
|---|---|
| 落款 | 下前の裾まわり、衽、共八掛の目立たない位置 |
| 証紙・証明書 | たとう紙の中、桐箱の底、別の引き出し |
| たとう紙の記載 | 呉服店名や作家名の墨書き |
| 仕立ての状態 | 反物のままか、仕立て済みか |
落款を探す
友禅の作品には、作者を示す落款が入っていることがあります。多くは裾や衽(おくみ)の目立たない位置、あるいは共八掛の部分に染め抜かれています。着物を広げて、下前の裾まわりを中心に探してみてください。畳の上に広げるスペースがなければ、裾の部分だけをめくって見るだけでも構いません。
見つけたら、こすったり指でなぞったりせず、そのまま写真を撮っておいてください。落款は査定における最も重要な手がかりのひとつです。読めなくても構いませんので、そのまま撮影して専門家に見てもらってください。
落款が見当たらない場合もあります。仕立ての際に裁ち落とされてしまった、あるいは元から入っていなかったという事情が考えられます。落款がないから作家物ではない、とは限りません。生地の質や染めの表情から判断されることもありますので、諦めずに相談してみてください。
証紙・証明書を探す
着物には、産地や作家を証明する証紙が付いていることがあります。反物のときに端に貼られていたものが、仕立ての際に切り取られて保管されている場合も多いものです。
たとう紙の中、桐箱の底、あるいは別の引き出し。証紙は本体と離れて保管されがちですので、心当たりのある場所を確認してください。証紙があるかないかで評価が変わるのは、着物の世界では一般的なことです。
証紙は、その着物が何であるかを裏づける書類です。骨董の世界で箱書きが重視されるのと同じ役割を果たしています。破れていても、変色していても、あるだけで意味があると考えてください。捨ててしまってから探しても、二度と手に入りません。
たとう紙の記載も見る
意外な情報源が、着物を包んでいるたとう紙です。呉服店の名前や、作家名、品物の名称が墨書きされている場合があります。誂えた際の記録が、そこに残っているわけです。
たとう紙が黄ばんでいても、破れていても捨てないでください。中身より包み紙のほうが情報量が多いということが、この分野では実際に起こります。
購入時の領収書や、呉服店とのやり取りの記録が残っている場合も同様です。いつ、どこで誂えたものかがわかれば、来歴を裏づける材料になります。箪笥まわりの書類も、一緒に確認しておいてください。仕立てを依頼した際の伝票が挟まっていることもあり、そこから制作の時期がわかる場合もあります。
仕立ての状態を見る
未仕立ての反物のまま残っている場合と、仕立てられている場合があります。反物のほうが次の持ち主の寸法に合わせられるため、扱いやすいとされます。誂えたものの一度も袖を通さないまま残っている、という反物が箪笥の奥から出てくることもあるでしょう。
仕立て済みであっても、価値がなくなるわけではありません。作家物の場合、寸法よりも作品としての評価が優先されるからです。裄や身丈が短くても、まずは見てもらってください。
昔の着物は現代の人の体格に合わないことが多く、そのままでは着られないものがほとんどです。しかし仕立て直しという方法がありますし、作品として保管したいという買い手もいます。寸法を理由に諦める必要はないでしょう。
査定で見られるポイント
作家名が確認できたうえで、他に何が評価を左右するのかを見ていきます。
状態の影響をどう考えるか
絹は経年で変化します。保管中のシミ、黄ばみ、たたみ皺、カビ。何十年も箪笥にあった着物にこれらがまったくないほうが例外です。
ここで最も大切なことをお伝えします。状態が悪いことは、作家物においては必ずしも致命的ではありません。手入れによって回復できる範囲のシミもありますし、専門の職人が扱える体制を持つ業者であれば、その前提で評価します。「汚れているから捨てよう」という判断だけは避けてください。
もちろん、程度の問題ではあります。カビが広範囲に広がっている、変色が生地の内側まで進んでいる、虫食いで穴が開いている。こうした場合は評価が下がるのも事実です。それでも、判断は見る人に任せてください。所有者が悪いと思った状態が、専門家の目には十分に扱える範囲だったということは珍しくありません。
自分で手入れをしない
一方で、所有者による手入れは避けるべきです。市販の染み抜き剤を使う、水で濡らす、日に干す。いずれも絹と染料を傷める行為になります。
とくに友禅は、手描きの染料が使われています。水分に触れれば滲む可能性がありますし、日光は退色の原因になるのです。良かれと思った処置がそのまま減点になる。この点は繰り返しお伝えしておきます。虫干しの習慣があった家では、つい日に当てたくなるかもしれません。しかし直射日光は避け、風通しの良い日陰で行うのが本来の作法です。査定を控えているなら、無理に虫干しをする必要もないでしょう。同じ領域の記事として、だるま3マガジンの経錦と緯錦の違いとは?特徴・歴史・価値を徹底解説|伝統織物の見分け方ガイドもご覧ください。
帯や小物も一緒に
着物を集めていた人の箪笥には、帯、帯締め、帯揚げ、羽織といった一式が揃っていることが多いものです。作家物の帯が別に入っている場合もあります。
着物だけを取り出さず、引き出しごと見てもらってください。全体を見れば、その人がどういう好みで揃えていたかがわかります。それは他の品を評価する際の手がかりにもなるのです。
加えて、着物と帯は組み合わせで価値を持つ場合があります。同じ作家の作品で揃えていた、あるいは一式で誂えたというまとまりは、バラして手放せば失われてしまいます。分けずに一度に見てもらう理由が、ここにもあるわけです。同じ領域の記事として、だるま3マガジンの手織りと機械織りの違いとは?特徴・価値・見分け方を徹底解説|着物や織物の魅力比較もご覧ください。
買取以外の選択肢
手放すことに迷いがあるなら、その気持ちを無理に抑える必要はありません。仕立て直して着る、羽織や帯に作り替える、家族に譲る、寄付する。選択肢はいくつもあります。
ただし、どの道を選ぶにしても、価値を知ってからのほうが判断は確かになります。査定は多くの場合無料ですし、結果を聞いてから決めて構いません。順番としては、確かめるのが先です。この順番だけ守ってください。
手放すことに罪悪感を覚える方は少なくありません。母や祖母が大切にしていたものだから、という思いがあるからでしょう。ただ、着られないまま箪笥で傷んでいくよりも、着る人の手に渡るほうが良いという考え方もあります。どちらが正しいという話ではなく、決めるのは所有者自身です。だからこそ、判断材料を揃えてから決めていただきたいのです。加賀友禅唯一の人間国宝・木村雨山の着物買取相場を解説という記事も用意しています。
査定に出す前の最終チェック
箪笥の前に立ったら、次の点を確認してください。三十分ほどの作業です。
- 落款を探したか ── 下前の裾まわり、衽、共八掛を中心に。見つけたら写真を撮る
- 証紙・証明書はあるか ── たとう紙の中、桐箱の底、別の引き出しも確認する
- たとう紙を捨てていないか ── 墨書きの記載がないか見る。黄ばんでいても残す
- 手を加えていないか ── 染み抜き、水拭き、天日干し。いずれも不要
- 帯や小物を分けていないか ── 引き出しごと、一式で見てもらう前提で用意する
- 状態を理由に諦めていないか ── シミや黄ばみがあっても、作家物なら評価される場合がある
このうち最も差が出るのが、三つ目と四つ目です。証紙を捨ててしまった、良かれと思って染み抜きをした。この二つは後から取り返せません。逆にいえば、この二点さえ守れていれば、あとは業者に任せて構わないということでもあります。
点数が多い場合は、出張査定を選べば運び出しの手間もかかりません。箪笥ひと棹分をそのまま見てもらう、という依頼の仕方もできます。何十枚あるかわからないという状態でも、まずは声をかけてみてください。
なお、相続に伴う整理で税務が関わる場合は、個別の税務判断は税理士等の専門家にご相談ください。