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親子二代人間国宝・森口邦彦の友禅の買取相場を解説

作家物・伝統工芸品

親子二代人間国宝・森口邦彦の友禅の買取相場を解説

箪笥の着物を整理していて、他とは明らかに雰囲気の違う一枚に手が止まった。花鳥でも古典文様でもなく、幾何学的な線と面で構成されている。もしそこに森口邦彦の名があるなら、それは現代の友禅を代表する作家の作品です。森口邦彦は2007年に友禅で人間国宝に認定され、父の森口華弘に続く親子二代の認定として知られています。この記事では、この作家の作風がなぜ独特なのか、蒔糊とはどういう技法なのか、そして査定では何が見られているのかを解説します。

森口邦彦という作家

まず、この作家の経歴と位置づけを整理しておきましょう。

デザインを学んで友禅へ

森口邦彦は1941年、京都に生まれました。父は友禅の作家であり、後に人間国宝となる森口華弘です。しかし邦彦は最初から家業に入ったわけではありません。京都市立美術大学で日本画を学んだのち、フランスへ渡り、パリの美術学校でデザインを修めています。

この経歴が、その後の作風を決定づけました。伝統の内側だけで育った人ではなく、いったん外の世界の造形教育を受けてから戻ってきた作り手です。帰国後に父へ師事し、友禅の技法を身につけました。

一度外へ出た人が家業に戻るという経路は、伝統工芸の世界では珍しいものではありません。ただ、外で学んだものをそのまま持ち帰り、作品の中心に据えた例となると数は限られます。技法は父から受け継ぎ、造形の考え方は自分が学んだところから持ってくる。その掛け合わせが作品に表れているわけです。

幾何学的な意匠

作品を見て多くの人が驚くのは、その意匠です。友禅といえば草花や風景を描いたものを思い浮かべますが、森口邦彦の作品には、線と面の反復によって構成された抽象的な文様が用いられます。着物という形式のなかに、現代的な造形が持ち込まれているわけです。

とはいえ、伝統から離れているわけではありません。用いられている技法は友禅そのものですし、着物としての約束事も守られています。新しさと伝統が同居している。そこがこの作家の独自性だと考えてください。

所有者の目には「着物らしくない着物」に映るかもしれません。古典文様のほうが価値がありそうだと感じて、こちらを処分側に回してしまう。そうした取り違えが起こりやすい作風でもあります。見た目の印象で判断せず、まず落款を確認してください。

蒔糊という技法

作品を支えているのが、蒔糊と呼ばれる技法です。糊を薄く伸ばして乾かし、細かく砕いた粒を布の上に蒔いて防染する。糊が置かれた部分だけが染まらず、点のような模様が残ります。雪が降り積もったような、あるいは霧が漂うような質感が生まれるのが特徴です。

この技法は父の森口華弘が用いたことで知られ、邦彦もそれを受け継ぎました。受け継いだうえで、自身の幾何学的な意匠と組み合わせている点が独自の展開だといえます。同じ技法でも、何を表現するかによって仕上がりはまったく違うものになるでしょう。父の作品と並べれば、受け継がれた部分と変えた部分の両方が見えてきます。手間のかかる工程であり、粒の大きさや蒔き方によって表情が変わってきます。近くで見ると無数の点が画面を構成している。その繊細さが評価されてきた部分です。

蒔糊は、狙った位置に狙った密度で糊を置くのが難しい技法です。粒が偏れば模様は崩れますし、糊が浮けば染めが入ってしまいます。一枚の着物を仕上げるまでに何度も工程を重ねる必要があり、失敗が許されない作業が続きます。手間の量が、そのまま作品の質に直結する技法だといえるでしょう。

親子二代という位置づけ

父の森口華弘は1967年に友禅で人間国宝に認定されました。そして邦彦が2007年に同じ分野で認定を受けています。同一分野で親子が続けて認定された例は多くありません。

この事実は、単なる話題性の問題ではないでしょう。技法が確実に受け継がれ、なおかつ次の世代が独自の展開を加えたことが認められた結果だからです。染織の歴史のなかで語られる位置にある作家だと考えてください。

こうした位置づけは、市場での需要にも影響します。研究や展示の対象であり続ける作家の作品は、探している人が途切れにくいからです。流行によって評価が上下する分野とは、その点が異なるでしょう。

査定で見られること

続いて、実際の評価がどう決まるのかを見ていきます。

見られること 内容
落款 下前の裾まわりや衽の目立たない位置
証紙・証明書 本体と離れて保管されがち。箪笥まわりを探す
着物か帯か 帯は寸法の制約が小さい
仕立ての有無 未仕立ての反物は扱いやすい
状態 シミ・黄ばみ。作家物では致命的とは限らない

現存作家であるということ

森口邦彦は現在も活動を続けている作家です。物故作家とは、市場での扱いがやや異なります。物故作家の場合は作品数が確定するのに対し、現存作家では制作が続くからです。

もっとも、手描き友禅の制作数はもともと限られています。一枚に長い時間がかかりますし、大量に作れるものではありません。現存作家だから評価が低いということにはならないと考えてください。

むしろ、活動が続いている作家は展覧会や出版を通じて名前が知られ続けます。市場での認知が保たれるという意味では、有利に働く面もあります。所有者が気にすべき点ではありませんので、判断は査定士に預けてください。

落款と証紙を確認する

友禅の作品には、作者を示す落款が入っていることがあります。下前の裾まわりや衽の目立たない位置を中心に探してみてください。見つけたら、こすったりせず、そのまま写真を撮っておきます。

証紙や証明書は本体と離れて保管されがちです。たとう紙の中、桐箱の底、別の引き出し。心当たりを一通り確認してください。証紙一枚の有無で評価が変わるのは、着物の世界では一般的なことです。

証紙は、その着物が何であるかを裏づける書類にあたります。骨董の世界で箱書きが重視されるのと同じ役割です。破れていても、変色していても、あるだけで意味があると考えてください。捨ててしまってから探しても、二度と手に入りません。

着物か帯か、仕立ての有無

森口邦彦の作品には、着物のほかに帯もあります。帯は寸法の制約が小さく、現代の人でもそのまま締められることが多い分野です。着物だけを取り出して帯を後回しにせず、一緒に見てもらってください。同じ作家で着物と帯を揃えていた、あるいは一式で誂えたというまとまりが残っている場合もあります。そのまとまり自体が評価されることもありますので、バラして手放すのは避けたほうがよいでしょう。

仕立ての有無も判断材料になります。未仕立ての反物であれば次の持ち主の寸法に合わせられますし、袖を通していないぶん状態も良好なことが多いものです。ただし、仕立て済みだから評価されないという話ではありません。作家物の場合、着るためではなく作品として求める人もいるからです。裄や身丈が現代の体格に合わなくても、仕立て直しという方法があります。寸法を理由に諦めないでください。

状態をどう考えるか

絹は経年で変化します。保管中のシミ、黄ばみ、たたみ皺。何十年も箪笥にあった着物にこれらがまったくないほうが例外でしょう。

ここで大切なことをお伝えします。状態が悪いことは、作家物においては必ずしも致命的ではありません。手入れで回復できる範囲のシミもありますし、職人を抱える業者であればその前提で評価します。「汚れているから」という理由で処分を決めないでください。

もちろん程度の問題はあります。カビが広範囲に広がっている、変色が生地の内側まで進んでいる。そこまで進んでいると、評価は落ちます。それでも判断は見る人に任せてください。素人目には手遅れに見えても、扱う側から見ればまだ十分な状態ということがあります。

扱いで守るべきこと

良かれと思った行為が価値を下げてしまう。着物はそういう分野です。

自分で手入れをしない

市販の染み抜き剤を使う、水で濡らす、日に干す。いずれも絹と染料を傷める行為になります。とくに手描きの友禅は染料が水分に触れれば滲むおそれがありますし、日光は退色の原因になるのです。

虫干しの習慣がある家では、つい日に当てたくなるかもしれません。しかし本来は風通しの良い日陰で行うものですし、査定を控えているなら無理に行う必要もないでしょう。埃が気になっても、乾いた布でこすれば絹の表面が毛羽立ちます。何もせずそのまま、が最も安全な選択になります。

たとう紙と書類を残す

たとう紙には、呉服店の名前や作家名、品名が墨書きされている場合があります。黄ばんでいても、破れていても捨てないでください。品物そのものより、それを包んでいたもののほうが手がかりになる場合があります。

購入時の領収書や、展示会の案内、作品の解説が残っていることもあります。箪笥まわりの書類も一通り確認しておいてください。来歴を裏づける材料になります。とくに作家物では、いつどこで手に入れたものかという情報が判断を助けます。仕立てを依頼した際の伝票が挟まっていることもありますので、封筒の中身まで見ておいてください。だるま3マガジンの経錦と緯錦の違いとは?特徴・歴史・価値を徹底解説|伝統織物の見分け方ガイドも、あわせて読んでおくとよいでしょう。

選り分けない

箪笥を整理する際、良さそうなものだけを選びたくなるものです。しかしその判断が結果を決めてしまいます。地味に見える一枚が、箪笥の中で最も評価される品だったということが現実に起こるからです。

着物、帯、羽織、小物、反物。一箇所に集めて、まとめて見てもらってください。査定の現場で最も惜しまれるのは、所有者が処分側に回したものの中に、最も価値のある一枚が入っていたという事態です。量があるなら出張査定を頼めます。運ぶ手間は考えなくて大丈夫です。周辺の話として、だるま3マガジンの手織りと機械織りの違いとは?特徴・価値・見分け方を徹底解説|着物や織物の魅力比較も挙げておきます。

相談先を選ぶ

着物を扱う業者は数多くありますが、作家物を適切に評価できるかどうかは別の問題です。総合リサイクル店では、素材と状態だけで値段をつけられてしまうこともあります。

人間国宝の作品や伝統工芸品の買取実績を公開している店を選んでください。友禅作家、人間国宝といった言葉が実績に並んでいるかどうかが、ひとつの目安になります。

どこへ持っていくかで、同じ品でも金額が変わる。着物はそういう分野です。手間を惜しまず、扱える店を探してください。写真を送って事前に相談できる店であれば、運び込む前に見通しを立てられます。近いテーマでは人間国宝・羽田登喜男の着物はいくらで売れる?羽田友禅の価値も参考になるでしょう。

「今売るべき?」という疑問

ここまで読んで、いつ動くべきかを迷っている方もいるでしょう。最後に、その疑問に答えておきます。

結論から言えば、時期を計る必要はありません。相場の先を読もうとするより、状態が良いうちに動くほうが確実だからです。

理由は単純です。絹は保管しているだけで劣化していきます。シミは時間とともに広がりますし、黄ばみは進行します。箪笥にしまったまま数年待てば、その間に評価は下がっていく可能性が高いのです。相場が上がる可能性と、状態が下がる確実性を天秤にかければ、答えは自ずと決まってきます。加えて、箪笥の中に何があるかを把握しないまま年月が過ぎれば、いずれ次の世代が同じ判断を迫られることにもなるでしょう。

ただし、「今すぐ売るべき」と申し上げているわけではありません。手放すかどうかを決めるのは所有者自身です。仕立て直して着る、家族に譲る、額装して飾る。どの選択肢も正当なものですし、母や祖母から受け継いだものを手放すことに迷いが生じるのは自然なことでしょう。着られないまま箪笥で傷んでいくよりも着る人の手に渡るほうがよい、という考え方もありますが、それを押し付けるつもりはありません。

お伝えしたいのは、価値を確認する時期は早いほうがよいということです。見てもらう段階でお金はかかりません。決めるのはそのあとです。相談したからといって、その場で売らなければならないわけでもないのです。

まず知る。それから決める。この順番さえ守れば、後から悔いの残る判断にはなりにくいはずです。点数が多くて運び出せないという場合も、出張査定を選べば箪笥の前で見てもらえます。まずは写真を数枚撮って、相談してみてください。

なお、売却益や相続で税金の話が出てきたときは、税理士等の専門家にご相談ください。

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